1勝100敗 婚活回想録

婚活体験談をおもしろ、おかしく書いてます

コンビTとの再会 その1

俺はこの日、都内のお洒落なパーティ会場にいた。会場の雰囲気に負けないように、そしてダニエル・クレイグも嫉妬するほどに、ビシッとスーツを着ていた。久しぶりの異業種パーティだ。俺の佇まいに圧倒された周囲の人々は、羨望のまなざしを俺に向けている。しかし、それは俺の勘違いだ。

早く会場に着きすぎたので、準備で忙しいスタッフが走り回っているだけだ。

 

俺は映画のワンシーンのように、ドリンクを注文してその間に周りを物色した。この時に忘れてはいけないのは、カウンターに腕を置き、身体を預ける姿勢を取ることだ。カウンターの前でビシッと立っていると、ファミレスのドリンクバーになってしまう。コーラとオレンジジュースを組み合わせて喜んでいてはいけない。

パーティの案内状には「お洒落な格好で来てね」って書いてあったのに、Tシャツとくたびれたパンツで参加している男がいるではないか。これはルール違反だ。もしかしたら、敢えて狙ってTシャツを着ることで注目を浴びようとしているのではないか、俺以上に姑息な男だ、今は11月だ。季節感とか出してくれよ。

一方、女子はどうだろうか?

みんな、思い思いに着飾っている。やはりパーティはこうじゃないと面白くないだろ、スーツ着て来て正解だった。素敵な場所には、それ相応の装いが必要ってやつだ。

結婚式では白を着て、お葬式では黒を着て、還暦のお祝いでは赤を羽織る。

ちなみに、今日はお葬式ではないが、黒のスーツだ。

 

 

俺は光輝く女子達の中に、見覚えがある2人組の女子を見つけた。あの2人を忘れるわけがない。過去、パーティで出会い、連絡先を聞けず涙したあの2人だ。今日の目標は、あの二人と仲良くなり、次につなげることだ。

戦闘指揮官の、「前方の女子二人に総攻撃開始!!」の大号令で一気に、突撃を開始しようとした矢先、現場から報告が入った

「男性はグループを作って、グループ単位で女子がいるテーブルを回る進め方になっています」

 

なんてこった。試合開始後(乾杯後)、俺はイノシシのごとくコンビTを目指そうとしたが、そこまで世の中は甘くなかった。

俺は単独参加だから、グループを作れとは言われても組む相手もいない。

幹事の粋な計らいで、俺はTシャツ君とは別のグループになったものの、ぱっとしない二人組と同じグループにされていた。

各女子テーブルの滞在時間は10分弱だ。コンビTのところは8番目か9番目だ。時間としてはぎりぎりだ。移動とかでもたついて打ち切りになれば、俺の恋は強制終了になってしまう。恋の電源ボタンを長押ししても復帰できるかは分からない。

 

時折、聞こえるコンビTのテーブルからの楽しそうな笑い声。俺は彼女たちの席を見返しながら、彼女たちと談笑している男たちに口惜しさと恨めしさで、胸がいっぱいだった。いや、これは実に大げさな表現だ。でも、気持ちは分かってもらえるじゃないかな。

俺はコンビTの席を気にしながらも、目の前の女子達との会話を楽しんだ、いや楽しんでいるように見せていた。しばらくは、同じグループの男2人に任せておけばいいやと、安心して俺は大船に乗っていた。この大船、は実は泥の船であることに、俺はまだ気がついていない。

数杯目のドリンクのお替りをもらって、テーブルに戻ると場が白けてるではないか。時既に遅し!泥の船が崩れ転覆していた。小さいころに好きだった童話のかちかち山の狸と同じだ。この雰囲気を戻さないといけないし、この後回るテーブルにも迷惑をかけられない。俺は場を盛り上げる使命感に火がつき、背中に火がつき、そして本当のかちかち山になった。コンビTの席まであと8席。

続く。