コンビTとの再会 その4
俺たち3人は、会場となるイタリアンレストランがある、最寄駅で待ち合わせとしていた。
このイタリアンレストラン、本当に評判が良く予約が取りづらい。食べログでも高評価なので、お友達同士でも是非行っていただきたいお店です。
待ち合わせの10分前に到着した俺は、脂取り紙で顔のテカリを抑え、そして髪型を整えた。大した顔でもないので、何かが特別に変わるわけではないのだが、本人の気持ちが入れ替わるので、良しとしよう。
2人に到着した事をLINEで連絡をするのだが、既読にすらならない。まさか、まだ仕事中なのか!?しかも同時に2人とは、それは困るぜよ。
電車が駅に入ってくる音を聞くたびに、ホームへの階段を見つめるのだが、2人が来ることはなかった。
時間を確認すると、移動しないと遅刻というタイミングまで来てしまった。俺は2人に先に行く旨をLINEで連絡して、小走りで店に向かった。
せっかくのエルサとアナの会なのだ。俺の苦労を無駄にしてはいけない。あいつら、絶対この苦労なんて知らないだろう、俺がどれだけこの会に賭けているのか、全く理解していない!!ひどすぎる!!
…まぁ、言ってないから仕方ないかもだけど。
俺はジムで鍛えているから、ちょっとやそっと走っても、息を切らすことはない。タッタカタァーというリズミカルな走りで、少し遅れたが到着した。
エルサたちからしたら俺は遅刻した人間だ。遅れて申し訳ないという気持ちを出す為に、あえて息を切らす演出をすべきか?それとも、余裕がある大人っぽく、正々堂々と入るべきか?
悩む。
まだ、悩む…
結局のところ、どうでもいいやとなり、俺はお洒落なデザインでできたドアをよっこらせと開け、店員に席を案内してもらった。店内には美味しそうな匂いが漂っている。やはり、この店にして正解だ。エルサもアナも喜んでくれるに違いない。
案内された席には、エルサとアナ、そしてもう1人、えーっと、暫定的にクリストフと呼んじゃおうがいる。
本当に嬉しい。やっと、ゆっくり喋れる時間が来たんだ!
分かってもらえますでしょうか?私の気持ち。
そして、彼女の前には、男友達2人がいてくれてる。
えっ?
なぜ、貴様ら、先回りして来てるんだよ、おいこら。
来るの遅かったねー、仕事終わらなかったの?
大分早目に来たから、先に来てたんだよねー
つまり、時間通りに来ても、それより前にみんなが来てたら、あんたは遅刻扱いなのです ということのようだ。
うーん、なかなか。
遅れをとってはいけない。俺も急いで飲み物を注文して、乾杯をして、会話に参加した。
アナは髪を切っていた。そういうところに気がつけるやつが、勝者となるのだ。俺は髪を切って可愛くなったよねと、彼女のプライドをくすぐるように褒めた。
しかし、切る前がダメでしたという表現は良くない。そこで、俺は「新しい違った可愛らしさだよね」と、髪を切る前後の容姿を褒めるような表現を使うようにしている。こういうのは、普段から職場とかでも、観察して言いまくっていると、いざというとき、躊躇なくサラサラ〜と出てくるので、みんなも練習してほしい。
お酒が回って来たのか、実はエルサは大人しいと思わせておきながら、よく喋り、よく笑う女性であった。お互いバカ話をしながら、運ばれてくる料理を撮影しながら、俺とエルサは一気に仲良くなったのだ。他のみんなも、それぞれ楽しそうに喋っている。
盛り上がるが、決してどんちゃん騒ぎにならないのが、俺のやり方だ。もっとも店の雰囲気が、そんな事を許してくれないが。
しかし、待てど暮らせどテーブルの下で彼女が手を繋ぐことを求めたり、足を絡ませてくることはない。
この時の俺は勝利を確信していたので、スキンシップなぞ不要であり、求められない事を不満には思っていなかった。
料理も美味しく、お酒も美味しく、そして何より楽しいおしゃべりで、大盛り上がりで会は終わった。
6人は会計を済ませると、駅の方に向かって歩き出す。
エルサとアナとクリストフは、3人で腕を組み横一列で楽しそうに歩いている。
俺はこのような光景を、過去に何度も見ていて、それが何を意味しているのかも理解していた。
これは、今日の合コンの男たちはつまらんかったぜという印なのだ。
つまり、エルサからすると俺は不合格なのだ。
ちょっと待ってくれよ、5分前にみんなで、楽しくLINEのグループ作っただろ。
タチの悪いジョークなら、その辺でやめておいてくれよ。笑えないぜ、全く。
俺は動揺を隠しながら、なんとかみんなと楽しく喋り、そして解散した。
この合コンから数ヶ月経過しても、エルサもアナもクリストフからも連絡は来ていない。
きっと氷にされたままなんだろう。